[M&A戦略と法務]

2023年4月号 342号

(2023/03/09)

スピンアウト・スタートアップを巡る諸問題

小川 周哉(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
  • A,B,EXコース
1.スピンアウト・スタートアップの増加

 近年、起業意識やオープンイノベーション意識の高まりに加えてエコシステムの成長、また政府の強い旗振りにより、国内スタートアップを取り巻く環境は大きく変化しつつある。そのような中で近時増加しているのが、大規模な事業会社や教育・調査機関からその事業やシーズの一部を切り出す形で発足する、スピンアウト・スタートアップである。これは、伝統的に高い能力をもつ個人が大企業等に就職することが多かった我が国において、質の高いスタートアップの重要な供給源の一つになる可能性があるアプローチと位置づけられる。

 M&Aの文脈においてカーブアウト型M&Aに関する議論が盛んに行われていることに比べると、現状、スピンアウト・スタートアップに関する議論はそれほど耳目を集めているものではない。しかし、近時スピンアウト・スタートアップの数は増加の一途を辿っており、カーブアウト型M&Aと同様に、より精緻で、各プレイヤーが同じ認識に立った議論が望まれる状況に至っている。スピンアウトにはそもそもの考え方から悩ましい点が多く、今後、この類型は更に増加していくと思われることからすると、そのような共通認識を醸成することは、我が国のエコシステムのレベルアップに一定の貢献を果たすものと思われる。

 そこで本稿では、複数の事案を通じて得たスピンアウト・スタートアップの特徴と論点について、概観してみることとしたい。なお、以下では、当該事業・シーズが元々帰属していた会社や機関を「切り出し元」と表現することがある。

2.どのように始めるか-設立と資本政策

(1)設立時の難点

 スピンアウト・スタートアップは、典型的なスタートアップとは異なるプロセスを経て始まる。すなわち、典型的なスタートアップは、起業家が起業を決意した瞬間に始まり、当初は自己資金や家族資金など、自らあるいは極めて近接したプレイヤーの財産を基礎にエンティティ(会社)が設立されることになる。したがって、設立段階において、観念的には、B/S上、資産に計上されるのは設立時払込金見合いの現金のみでのスタートとなる。

 これに対してスピンアウト・スタートアップでは、


■筆者プロフィール■

小川氏

小川 周哉(おがわ・しゅうや)
TMI総合法律事務所パートナー弁護士。株主総会、コーポレートガバナンス、起業・株式公開支援、商事関連争訟などの実務に従事。2014年デューク大学ロースクールLLM修了。

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