「M&A巧者」としての呼び声が高いオリックスにおけるM&Aの中核部署「事業投資本部」は、オリックスの自己資金を活用し、プライベート・エクイティ投資を中心に多様な投資案件を実行している。
事業投資本部の中にはコンセッション事業を担う部署も含まれており、計約110名が在籍し、そのうち70名が投資プロフェッショナルとして活躍する。リーマン・ショック以降の投資機会増加に伴い、組織は10年以上かけて大幅に拡充されており、今後もさらなる人員の増強に取り組む方針だ。
投資方針の特徴は、オリックスのバランスシートを活用した「プリンシパル・インベストメント」を基本とし、投資期間に
PEファンドのような制約がない点だ。
企業価値で100億円以上の案件を中心に柔軟に投資を行う。例えば、2024年9月にはEdTech企業「ラインズ」への出資を手掛けたほか、2024年7月にはパナソニックホールディングス傘下の「パナソニック コネクト」からプロジェクター事業等の
カーブアウトに伴う資本提携を発表している。また、過去には化粧品・健康食品大手のDHCの事業承継、東芝の
TOBに際した資本参加といった大型案件にも関与した。業種では、ヘルスケアやIT情報サービス、物流・レンタル、BPOなど成長が見込まれる分野への注力を強化する一方で、業種を問わず魅力的な案件を積極的に取り込む「業種無差別」の姿勢も重視しているという。
投資後の支援の手法としては、オリックス独自の
ハンズオン型アプローチを採用しているのが大きな特徴だ。投資先企業にはオリックスの社員が常駐し、オリックスグループ全体のリソースも活用して経営支援を行う。たとえば、物流資材を提供するワコーパレットの買収においては、不動産部門やレンタル事業部門との連携を深めることにより、事業シナジーを創出した。また、ネットプロテクションズの買収後の成長支援では、オリックスの「法人営業本部」の広範な営業ネットワークを活用し、サービス導入を促進させ、事業拡大を実現させることに成功した。
さらに、
PMIのプロセスにおいても、オリックスは独自の手法を展開している。PMIの「100日プラン」後も長期的な視点で企業価値を向上させる取り組みが行われており、必要に応じて外部の専門家やアライアンス・パートナーとも連携していく。
イグジットについても、IPOや
トレードセール、さらには投資先企業同士の統合など、多様な選択肢を持ち、期間にとらわれず、最適なタイミングを見極めつつ実施している。
オリックスの事業投資は今後も投資機会を探索しつつ、規模の拡大と質の向上を図り、M&A市場での存在感をさらに高めていく方針だ。2005年以降、約20年にわたりM&Aに関与し、現在、常務執行役・事業投資本部長を務める三宅誠一氏に、事業投資本部におけるM&Aの実施方針の特色等を聞いた。
事業投資グループの位置づけ
―― オリックスでM&Aに取り組んでいる事業投資本部は、どのような事業にどういった体制で取り組んでいるのですか。
「事業投資本部には大きく分けて『事業投資』と『コンセッション』の2つの部門があります。事業投資部門は主にオリックスの自己資金を活用したプライベート・エクイティ投資を中心に取り組んでいます。一方で、コンセッション事業は国や地方自治体が所有する公共施設の所有権を公的機関に残したまま、民間事業者が運営を担うビジネスです。具体的には、関西国際空港(関空)、大阪国際空港(伊丹)、神戸空港という『関西3空港』の一体運営や、宮城県の上工下水道、浜松の下水道、等々力緑地の再編整備・運営事業といったプロジェクトを推進しています」