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[M&Aフォーラム賞]

2018年11月号 289号

(2018/10/15)

第12回M&Aフォーラム賞が決定――M&Aフォーラム賞『RECOF賞』などに4作品を選定

左から中村 文亮(大阪大学 大学院経済学研究科 博士後期課程)、太田 洋(西村あさひ法律事務所 弁護士)、落合 誠一会長(東京大学 名誉教授)、岩田 一政選考委員長(公益社団法人日本経済研究センター代表理事・理事長)、天野 良明(京都大学 大学院経済学研究科 博士後期課程)、佐々 雄一(エーザイ株式会社 コーポレートプランニング部 アソシエートディレクター)
左から中村 文亮(大阪大学 大学院経済学研究科 博士後期課程)、太田 洋(西村あさひ法律事務所 弁護士)、落合 誠一会長(東京大学 名誉教授)、岩田 一政選考委員長(公益社団法人日本経済研究センター代表理事・理事長)、天野 良明(京都大学 大学院経済学研究科 博士後期課程)、佐々 雄一(エーザイ株式会社 コーポレートプランニング部 アソシエートディレクター)
【受賞作品】

◆M&Aフォーラム賞 正賞『RECOF正賞』(論文)
『IFRS任意適用がM&Aの収益性へ与える影響』(京都大学大学院経済学研究科 修士論文)
【著者】天野 良明(京都大学 大学院経済学研究科 博士後期課程)

◆M&Aフォーラム賞 奨励賞『RECOF奨励賞』(論文)
『スピン・オフ税制の導入とわが国上場会社への影響』(旬刊商事法務 №2133〔上〕及び№2134〔下〕所収)
【著者】太田 洋(西村あさひ法律事務所 弁護士)

◆M&Aフォーラム賞 奨励賞『RECOF奨励賞』(論文)
『製薬業界におけるM&Aおよびオープンイノベーションによる価値創造 Key Success Factorに関する研究』(早稲田大学大学院経営管理研究科 プロジェクト研究論文)
【著者】佐々 雄一(エーザイ株式会社 コーポレートプランニング部 アソシエートディレクター)

◆M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞『RECOF特別賞』(論文)
『買収による開発者の生産性への影響:共同開発関係の変化の観点より』(大阪大学大学院経済学研究科 修士論文)
【著者】中村 文亮(大阪大学 大学院経済学研究科 博士後期課程)

15作品が応募

 M&Aフォーラム賞選考委員会は、2018年度(平成30年度)「第12回M&Aフォーラム賞」に4作品を選定し、9月25日表彰式が行われた。

 「M&Aフォーラム」は、2005年10月の内閣府経済社会総合研究所の「M&A研究会」において民と官との連携ができる民間ベースのフォーラムが提唱されたことを受け2005年12月に設立され、今年で13周年を迎える。

 理論的、実証的及び実務的な視点から、進歩、変化するM&A事情の研究・調査を行い、今後のわが国におけるM&Aのあり方について提言を行うとともに、主に企業人を対象にした「M&A人材育成塾」の運営等の活動を通じて、M&Aの普及・啓発、人材や市場の育成に資することを目的としており、さまざまな関係分野の有識者、実務専門家、企業関係者が参加する場となっている。

 「M&Aフォーラム賞」は、2000年度に「M&Aに関する社会科学的観点からの研究論文の執筆で顕著な業績をあげた学生・院生を顕彰する懸賞論文制度」としてレコフが創設した『RECOF賞』が前身で、M&Aフォーラムからの強い要請もあり、学識経験者、行政担当者、M&A専門家、企業関係者(実業界)ならびに大学院、大学、各種専門学校を含めた学生にいたるまで幅広い分野に対象を広げ、06年にM&Aフォーラム賞『RECOF賞』として引き継がれた。

 第12回を迎えた今回は、法律、経済、経営、税務・会計、ファイナンスなどをテーマにそれぞれの観点で掘り下げた作品で、15の書籍・論文の応募があった。

 選考委員長の岩田一政氏(公益社団法人日本経済研究センター代表理事・理事長)のもと、大杉謙一氏(中央大学法科大学院教授)、西山茂氏(早稲田大学ビジネススクール教授)、丹羽昇一氏(レコフデータ専務理事)の3人の委員によって、

①作品が創造性に富んでいること、
②実用性・実務への応用可能性が高いこと。
③問題点を先取りし、その解決の糸口を論じたもの。
④M&Aの啓蒙に資するもので、業界全体への影響力が高いと判断されるもの。
⑤理論的・実証的な分析を行っているもの。

という観点で審査が行われた。


岩田選考委員長による講評

岩田氏
岩田氏
 岩田選考委員長は、「本年の特徴は、大学発の質の高い論文が多数寄せられたことでした。書籍についても、M&Aと10年後の業界予測の関係に関する著作やM&Aアドバイザーの視点から見た日本のM&A活動についての著作のみならず、事業担当者向けの法務解説書や労務デューデリジェンスに関するハンドブックなど優れた作品の応募がありました。

 本賞の審査は、毎年、M&Aに関わる多様なテーマを取り扱った秀作が並び、また、異なる分野の優れた業績を評価、比較することもあり、容易ではありません。本年も、特に最終選考となった2次審査では、いずれも示唆に富んだ力作が揃い、優秀な応募作品の順位付けを巡って、最後まで熟議を重ねました」として、次のように講評を述べた。

 「M&Aフォーラム賞正賞『RECOF正賞』を受賞した天野良明著『IFRS任意適用がM&Aの収益性へ与える影響』は、国際財務報告基準(IFRS)の任意適用が、M&Aの収益性(=営業キャッシュフロー対総資産比率の業界平均からの乖離)にマイナスの効果を与えていることを実証分析した論文である。

 日本基準とIFRS基準の大きな相違は、のれん償却負担の扱いにある。日本基準では、20年以内に規則的に償却されるのに対して、IFRSでは毎期の減損テストで減価が認められた場合に償却を行う。IFRSの任意適用がM&Aを実施する企業の収益性やパフォーマンスにどのような影響を与えるかは、M&Aが成功するか、失敗するかとの論点にもかかわる重要な問題である。

 本論文の優れている点は、実証分析を手堅く、かつ丁寧に行っているところにある。サンプル選択に伴う偏りを排除するために、IFRSを任意適用する確からしさが同程度の企業とそうでない企業をマッチングした上で(「プロペンシティ・コア・マッチング」法)、IFRS適用前後の収益率の変化を「差分の差分法」を用いて計測し、IFRSを任意適用した企業の収益率が3.3%低下したとの結果を得ている。先行研究のサーベイは、網羅的かつバランスが良く取れており、論文としての完成度が高い点も評価したい。

 続いてM&Aフォーラム賞の奨励賞として、審査委員の満場一致で『スピン・オフ税制の導入とわが国上場会社への影響』と『製薬業界におけるM&Aおよびオープンイノベーションに関する価値判断、Key Success Factorに関する研究』の2本の論文に授与することを決定しました。

 太田洋著『スピン・オフ税制の導入とわが国上場会社への影響』は、日本のスピン・オフ税制に関する優れたサーベイ論文であると同時に、今後の税制改革の進め方についても、具体的な提言を行っていることを高く評価したい。

 日本においてもコーポレート・ガバナンス改革を通じて、事業の『選択と集中』による、企業の株主価値を高めることの必要性が、広く認知されるようになっている。事業の「選択と集中」を実施する上で、既存子会社や事業の切り出し(スピン・オフ)を通じて経営の効率化を進めることが求められている。ところが、日本の場合、スピン・オフに伴う課税繰延べ措置が認められていなかったため、スピン・オフ実施を遅らせる要因の一つになっていた。平成29年の税制改正で、日本においても、アメリカ型のスピン・オフ税制が、一部導入されることになった。

 日本の会社法の下では、『新設分割+当該新会社株式の現物配当』もしくは『現物出資による新会社設立+当該新設会社株式の現物配当』(以上、事業部門スピン・オフ)と『対象子会社株式の現物配当』(子会社スピン・オフ)がある。このうち100%子会社に限定されているが、『分割型単独新設分離類型』と『単純現物分配類型』および『分社型新設分割または現物出資+現物分配類型』についても一定の条件を満たせば、課税繰延べ措置が認められることになった。

 今回、この税制改革では、新設される子会社は、100%子会社に限定されているが、本論文では、完全子会社以外の子会社(少なくとも80%子会社)まで拡充すること、さらに、『分社型吸収分割』または、『非新設現物出資+現物分配類型』のスピン・オフについても課税繰延べ措置を適用すべきであると論じている。

 また、スピン・オフと同時またはそれ以降に自社株買いを実施する場合の効果についても、今回の税制改革では取り上げられていない『スプリット・オフ』や『スプリット・アップ』との比較を行っていることは興味深い。

 佐々雄一著『製薬業界におけるM&Aおよびオープンイノベーションに関する価値判断、Key Success Factorに関する研究』は、技術革新を実施する上でオープンイノベーションの重要性が指摘される情勢の下で、研究開発に長い時間がかかり、しかも成功確率が低いとされる製薬企業10社における、M&Aとオープンイノベーションが株主価値を高めるかどうかイベントスタディにより検証した論文である。

 本論文でのオープンイノベーションとは、共同開発、開発権の導入・導出、販売権の導入・導出と定義されている。

 累積超過収益率を用いた分析では、M&Aとオープンイノベーションのいずれもが株主価値の創出につながっていること、また、M&Aとオープンイノベーションの間には株主価値創出に与える効果について、統計的に有意な差はないとされている。また、オープンイノベーションを実施する際の開発ステージを4段階(前臨床、概念実証、承認、承認取得後)に分けた分析、ならびに10件以上のイベントを実施した企業4社についての個別企業別の分析を行っている。形態別のM&Aについては、企業売却、出資、事業譲渡にプラスの効果、ジョイントベンチャーについてはマイナスの効果を検出している。形態別のオープンイノベーションについては、共同プロモーションのプラス効果が大きいこと、また、4つの段階別には、承認取得後にプラスの効果、前臨床ではマイナスの効果が検出された。これらの結果を踏まえ、概念実証前段階でのパイプラインの評価と自社の販売力の評価による形態の選択が重要な成功要因であるとの結論を導いている。本論文の残された問題は、オープンイノベーションイベントの形態は多岐にわたるものであり、個別のイベントが株価に与える効果は、M&Aよりもその評価が難しいところにある。いずれにしても、日本の企業が研究開発の自前主義から脱してオープンイノベーションを志向している状況にあって、本論文の実証分析は貴重な試みといえる。

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