[寄稿]

2021年11月号 325号

(2021/10/11)

銀行グループの参画による、事業承継をはじめとするM&A、地域経済の活性化の展望

~改正銀行法による投資専門子会社を通じた出資等に関する規制緩和を通じて~

龍野 滋幹(アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業 弁護士)
波多野 恵亮(アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業 弁護士)
  • A,B,EXコース
 銀行法上、①銀行本業への専念による効率性の発揮、②他業リスクの排除、③利益相反取引の防止、④優越的地位の濫用の防止といった観点から、銀行自身が営むことができる業務は一定の範囲に制約されており、銀行が子会社とすることができる一定範囲の会社(子会社対象会社)以外の国内の会社への出資は、原則として議決権5%までに制約されている(銀行法16条の4第1項、いわゆる「5%ルール」)(注1)。

 しかし、2020年12月22日付の金融審議会「銀行制度等ワーキング・グループ報告―経済を力強く支える金融機能の確立に向けて―」(以下「銀行制度WG報告」という。)、及び、この報告を受けて国会に提出され、2021年5月19日に成立した、「新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律」により改正された銀行法(以下「改正銀行法」という。)においては、日本経済の回復・再生及びデジタル化や地方創生など持続可能な社会の構築を目的として、銀行及びその子会社に関する業務範囲規制、出資規制等の緩和が盛り込まれた。

 改正銀行法に基づく規制緩和の柱の一つとして、銀行又は銀行持株会社が、個別の認可を受けることで一般事業を行う会社に対する出資(100%出資を含む)を可能とする柔軟な枠組みである「銀行業高度化等会社」に関する各種規制の緩和が挙げられる。ただ、改正銀行法下においても、フィンテック企業、地域商社など一定の類型の会社に対する銀行持株会社からの出資を除けば、「銀行業高度化等会社」への出資には当局の認可が必要であることには留意が必要であろう。そのため、この制度を利用して銀行グループがいわゆるプライベート・エクイティ・ファンドのように数年後の売却による投資リターンを求めて買収するケースは、実際にはなお考えづらい。他方、銀行グループが戦略的に事業会社をグループ内に取り込んで銀行業務や既存子会社の業務とのシナジーを追求していくケースなどで実際に利用されていくことが予想される。

 これに対して、改正銀行法においては、銀行グループによる特に地域における資本性資金の供給と各種の企業支援を強化することを目的として、主に銀行の「投資専門子会社」からの出資に関する規制緩和も行われていることは注目に値する。当該出資については、原則として個別の認可を必要とするものではなく、銀行グループからの一般事業会社への相当程度の出資、あるいは事業会社や金融投資家と銀行グループとの共同買収など、銀行グループが参画する様々なスキームによるM&Aの促進につながる内容であるものといえる。そこで、本稿においては、当該制度改正に焦点をあてて、新たな制度を概説するとともに、当該制度を活用したM&Aの可能性についての考察を行うこととしたい。

 なお、改正銀行法は、公布日である2021年5月26日から6月以内に施行されることとされている。また、改正銀行法に対応する政令(銀行法施行令)、内閣府令(銀行法施行規則)等については2021年8月6日に、また、主要行等向けの総合的な監督指針及び中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針については2021年8月27日にそれぞれ改正案(以下、銀行法施行規則に関する改正案を「改正内閣府令案」という。)が公表され、パブリックコメントに付されている。以下では、当該改正案を前提として記述を行うが、本稿執筆時点においては、パブリックコメントを踏まえた最終的なこれらの改正の内容については公表されていないため、実際に施行される内容とは異なる場合があることには留意されたい。


1.投資専門子会社を通じた出資等に関する規制緩和

(1) 投資専門子会社

 投資専門子会社とは、銀行(及び銀行持株会社)が子会社とすることができる、金融関連業務を専ら営む会社の類型の一つであり、いわゆるベンチャーキャピタルのことを指している。下記(2)で述べるとおり、銀行法上、銀行は、一定の類型の会社に対して、直接には出資規制(いわゆる「5%ルール」)の範囲内でしか出資を行うことができない一方、投資専門子会社を通じた出資であれば、出資規制や子会社業務範囲規制の制約を受けることなく、又はこれらの規制が緩和された形で出資を行うことができるとされている。すなわち、概要としては、銀行は一定の類型の会社に対して、直接に出資する場合には議決権ベースで5%までの出資しか行うことができない一方、子会社として投資専門子会社を保有している場合には、当該子会社からの出資という形をとることで、議決権ベースで100%の出資をする(すなわち銀行本体から見れば孫会社にする)ことも可能になる場合があることとされている。

 このため、投資専門子会社は、銀行(グループ)が特に改正趣旨である地域経済の活性化の観点から資本性の資金を幅広く提供していくにあたって鍵となる存在であり、またそれに限らず銀行(グループ)による事業会社への出資、買収に門戸を開く一里塚となるものといえ、実際に、多くの地域銀行が自己の子会社又は兄弟会社として投資専門会社を設立、保有している。

(2) 地域経済の支援強化のための出資範囲の拡充

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