[マールレポート ~企業ケーススタディ~]

2019年6月号 296号

(2019/05/20)

【MUJIN】「ユニコーン」有力候補、産業用ロボットの自動化ベンチャーが打ち出した注目の資本政策と成長戦略

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滝野 一征(たきの・いっせい)

滝野 一征(たきの・いっせい)

1984年大阪生まれ。2003年単身渡米し、UCLAの後Soka University of Americaに入学。卒業後、ウォーレン・バフェット氏が保有し、製造業の中でも世界最高の利益水準を誇ることで有名なイスカル社でキャリアをスタート。生産方法を提案、構築する技術営業として受賞も経験。現場のプロとして多くの実績を積む。その後世界的ロボット工学の権威であるロセン博士と出会い、2011年にMUJIN を設立。

VCからの自社株買戻しと同時に銀行から巨額資金調達

 2019年2月、産業用ロボットの自動化ベンチャーであるMUJINの創業者2人によって、東京大学エッジキャピタル(UTEC)が保有する同社の全株式の取得と三井住友銀行からの総額75億円の資金調達が行われた。

 MUJINは、産業向けモーション・プランニングAI技術を応用し、産業用ロボットのための汎用的で知能的なロボットコントローラメーカーとして滝野一征氏(CEO)とロボット工学博士のRosen Diankov(CTO:以下ロセン氏)によって 11年7月に創業された。

 同社が開発するコントローラは、いちいち人間が教えることなくロボットに自分で必要な動作を考えさせることで、工場や物流センターでの複雑な作業を自動化することができる点が特長で、生産性を飛躍的に高めるとして世界的に注目を集めてきた。

【沿革】
2011年7月株式会社MUJINとして会社登記
2012年8月75百万円のシリーズA資金を東京大学エッジキャピタル(UTEC)から調達
2014年8月株式会社MUJINが総額6億円のシリーズB資金をJAFCO及びUTECから調達
2015年1月世界初のばら積みピッキング用ティーチレスコントローラ「MUJINコントローラ・ピックワーカー」を発売
2016年7月アスクル社と業務提携
2016年10月ベンチャーとして初めてロボット大賞 経済産業大臣賞を受賞
2017年6月JEITA(電子情報技術産業協会)ベンチャー賞を受賞
2018年2月JVA2018 中小企業庁長官賞を受賞
2018年7月日米イノベーションアワード エマージングリーダー賞を受賞
2018年9月ロジスティクス大賞 選考委員会特別賞を受賞
2018年10月日本ロボット学会 ロボット活用社会貢献賞を受賞
2019年1月第61回 十大新製品賞 日本力(にっぽんぶらんど)賞を受賞
2019年3月日本機械学会賞(技術)を受賞
 同社は、12年にベンチャーキャピタル(VC)のUTECから7500万円、14年にはUTEC及びジャフコから総額6億円の資金調達を実施している。この創業8年足らずのベンチャー企業が、VCのUTECが保有する自社の全株式の取得と同時に、銀行からの巨額の資金調達を実施するというケースは珍しく注目されている。

 そこで、滝野CEOに今回のUTEC保有の全株式の取得と、巨額の資金調達の狙いについて聞いた。

■インタビュー
世界唯一の産業用ロボットのソフトウエア・プラットフォームを作る

 滝野 一征氏(MUJIN CEO)

ウォーレン・バフェットに惹かれて

―― 高校卒業後、単身で渡米し大学に入ったのですね。

滝野 一征氏
 「高校時代は“水泳ばか”で、ジュニアオリンピックにも出ました。母親が英語の先生だったこともあって、アメリカの大学に進むものだと思っていました。2003年に単身で渡米して、最初はUCLAに入り、その後Soka University of Americaに編入しました。入学時に中国語を選択し、3年の時に上海大学での10カ月派遣留学も経験させてもらい卒業しました。

 大学在学中に投資家のウォーレン・バフェットに惹かれていたものですから、卒業後、ウォーレン・バフェットが06年に投資したイスラエルに本社のあるイスカル*という超硬工具メーカーに技術営業として入社しました。当時は日本の市場が隆盛で、ある時、日本市場の開拓を目的に、日本でも一番の激戦区と言われた愛知県の安城営業所に配属されました。ここで町工場回りを初めて経験したのですが、1年目に新人賞、3年目にセールス1位になりました。

 イスカルは、世界でも稀に見る超高収益会社です。日本のメーカーは、原価を積み重ねて最後にマージンを20%ぐらい乗せるという考えがほとんどだったと思いますが、イスカルはお客様からR&Dを委託されているという発想で価格をつけていました。したがって価格も高く、高いマージンが出ます。この高いマージンをR&Dに投入することで顧客のニーズに合った高性能の新製品を作り出してユーザーに還元するという理念で経営していたのです。したがって、常に新製品を業界で一番最初に出すメーカーでした。

 私は、機械が所狭しと並んでいる町工場の中で、工員さんたちが一生懸命働いている現場を回り、価値のない物が価値ある物に変わる瞬間を見て、製造業というのは人間の生活に直結した素晴らしい産業だと感じることができ、すごく自分の人生にとって良い経験をしたと思っています」

*イスラエル北部のテフェンに本社を置く世界第2位の超硬切削工具メーカーで、IMCグループの中核企業。2006年、IMCはウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイが当時の邦貨換算で4800億円を投じて8割の株式を取得している。日本のタンガロイ (旧 東芝タンガロイ)を08年11月に買収した。


ロセンと出会ってMUJINを創業

―― MUJINの創業は2011年ですが、どのような経緯があったのですか。

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