[対談・座談会]

2010年6月号 188号

(2010/05/15)

事業再生ADRとM&A――活用と融合に向けて

【出席者】
松嶋 英機 弁護士(事業再生実務家協会代表理事、西村あさひ法律事務所代表パートナー)
坂井 秀行 弁護士(坂井・三村・相澤法律事務所)
司会・構成 川端 久雄 (マール編集長 日本記者クラブ会員)
  • A,B,EXコース

目次

● はじめに

第1 事業再生ADRの利用状況

第2 ADRとM&A

第3 債務者企業と申立代理人

第4 金融機関

第5 手続実施者

第6 私的整理の到達点とADRの限界

第7 今後の課題
 

はじめに

司会:経済不況が長引くなか、過剰債務を負い経営不振に陥った企業が、早期の事業再生を果たすため、新たに整備された事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)を活発に利用しています。こうした企業の中からM&A案件も起きていますが、まだ数は限られています。利用する債務者企業も、当初は、資産は負債を上回っていて(資産超過)債務の返済猶予(リスケ)で済むと考えていたところ、手続きの中で、債務超過と分かり、DES(債務の株式化)や債権放棄に踏み込む事例も多く見受けます。経営責任、株主責任を問われるケースも出ています。こうした企業が本当の意味で再生を図るためには、やはり株式や事業に新たに投資をするスポンサー、即ちM&Aの買い手が必要と思われます。ADRとM&Aの活用と融合がもっとうまく行われれば、日本企業の再生、日本経済の発展に貢献するのではないか。

本日の対談は、こうした問題意識のもと、事業再生ADRの利用状況、M&Aに発展した事例を検証するとともに、ADR手続きの流れに即し、経営不振に陥った会社や金融機関のあり方、日本の私的整理の到達点などについて話し合っていただきます。

お二人は、いずれも倒産法分野の実務家として著名な弁護士です。松嶋先生は、事業再生ADR手続きを主宰する事業再生実務家協会の代表理事で、いわばこの手続き生みの親です。西村あさひ法律事務所の代表パートナーをされています。坂井先生は、千代田生命保険会社の再建処理などにも当たられています。米国の大手法律事務所と組んで外国法共同事業を行う法律事務所を率いておられます。

第1 事業再生ADRの利用状況

司会:昨年、事業再生ADRの業務が始まってから、何件ぐらいの利用があるのですか。ちなみに、事業再生ADRとは、中立公正な第三者の関与により、裁判外で、再建計画のほか、リスケや債権放棄など債務調整の合意を図る手続きとされています。

松嶋:申請件数は、昨年に一七件、今年も三月末までに四件ありました。合わせると二一件です。一二件がすでに成立しています。申請した中で上場企業が一〇件を占めます。上場会社の利用が多いのは予想以上です。金融債務の規模も、我々は当初一〇〇億円から五〇〇億円ぐらいの中規模のものを予想していたのですが、五〇〇億円以上のものも多く、中には一〇〇〇億円を超すものもあります。業種も通信から百貨店まで多岐に渡っています。

坂井:私も予想していたより大きな規模の企業が利用していると思います。ADRが一躍有名になったのは日本航空が申請してきてからです。ただ、このケースは金融機関による債権の回収などの一時停止が目的でした。こうした便宜的な使われ方は全く予想していませんでした。

松嶋:私もそうです。全般的に各社とも、一時停止がいついつまでに必要だ、と駆け込んでくるのですが、最後までこの手続きを行う前提できています。ところが、日航では、当初の申請段階から一時停止を取ることだけが目的で、企業再生支援機構の支援が決まれば、ADR手続きは中止し、そちらに移行するという前提できました。こうした利用は全く想定していなかったので、内部でも受理すべきかどうか、ずいぶん議論しました。制度の濫用ではないか、といった意見もありました。ただ、あの時点で一時停止をとり、将来、日航が更生会社になった場合に、つなぎ融資に優先権が確保できる制度はADRしかない。当時、日航の再建は国家プロジェクトになっていました。それで、我々もそれに協力するつもりで引き受けたというのが本音です。

司会:通信のウィルコムの場合はどうですか。


松嶋:ウィルコムは、日航と違います。当初、リスケだけを考え、ADRで最後までやるつもりでした。ところが、銀行の足並みがそろわない。債権カットも新たな資金も必要になる。それで、ADRと並行して企業再生支援機構にも相談し、そちらに移行することになりました。結果は日航と似ていますが、スタート時点は全く違います。日航のように一時停止だけが目的ではない。ADRを一生懸命進めたが、途中でダメになって手続きが終わるということは、我々も想定していましたから。やはり日航は問題で、最初から便宜的に使われると、ADR手続きの信頼性が失われます。手続きへの協力をお願いしても、金融機関も真剣に検討しなくなる心配もあります。ですから、今後は厳しくやろうといっています。…

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