M&A専門誌マール

2017年08月30日(水)

藤原裕之の金融・経済レポート

新たなフェーズに入った日本のインバウンド市場 ~ リピート客がもたらす3つの変化に対応できるか

 藤原 裕之((一社)日本リサーチ総合研究所 主任研究員)

観光業はグローバルな成長産業

 人口減少による成長の限界が懸念される中でも成長し続けている産業、それが観光業である。

 国連観光機関(UNWTO)の統計によると、2016年の全世界の旅行者数は前年から3.9%伸びて12億3500万人、観光収入は2.0%伸びて1兆1220億ドルとなった。

 テロなど様々な不安要素があるなかで、一貫して右肩上がりの成長を続けているのは驚きである。異なる文化・社会を見たいという欲求は人間の根源的なものであり、観光業は地球上に人間がいる限り成長し続ける産業と言える。そして今やインターネットで全世界の情報を知ることができ、リアルで体験したいという欲求が増幅されているのだろう。

成長するアジア観光と日本の存在感

 世界の旅行者12億人のうち約半分は欧州を訪れているが、2016年はテロの影響で伸び率は2.1%にとどまった。その欧州の伸び悩みをカバーし急成長を遂げているのがアジア観光であり、2016年のアジアへの旅行者数は8.6%の伸びをみせた。

 急成長するアジア観光の中でその先頭を走るのが日本である。日本への旅行者数はアジアの中で5番目だが、旅行者数の伸び率を足元で牽引しているのは日本である(図表1)。昨年は日本に次ぐ伸びを見せていた韓国は今年に入って北朝鮮情勢の影響等で旅行者数は急減している。アジア観光で今最も勢いがある国は日本である。

 図表1 アジア向け旅行者数伸び率の国別寄与度
 

日本のインバウンド市場の局面変化 ~リピート客主導の第2フェーズへ

 昨年の訪日旅行者数は年間最多の2403万人となり、今年も上半期で過去最多と記録を更新し続けている。そして日本のインバウンド市場は初めて日本を訪れる人が主導する第1フェーズから2回目以上のリピート客が主導する第2フェーズに局面が変わりつつある。

 ここ数年の訪日旅行者の急増は中国人がけん引していることは言うまでもない。訪日中国人の多くは初めて日本を訪れた人々である。訪日旅行回数を国籍別にみると、香港や台湾の旅行者は8割以上がリピート客であるのに対し、訪日中国人のリピート客は5割に満たない(図表2)。

 しかしここにきて訪日中国人の訪日回数にも変化が見られる。初めて日本を訪れた中国人の割合は2013年から2015年にかけて6割以上まで急増したが、その後2016年半ば頃からリピート客の割合は増加に転じている(図表3)。

 図表2 出身国別に見た訪日リピート客の割合


 図表3 中国人旅行者の訪日回数の割合



リピート客の増加がもたらす3つの変化

 日本のインバウンド市場が第2フェーズに入ってきたことで、訪日旅行者に3つの変化がみられるようになった。「訪問地の多様化」「コト消費」「高級志向」である。

①都市から地方へ

 初めて訪れる海外旅行先は代表的な観光名所を巡るのが通常だが、訪問回数が増えるにつれ、その国の風情や文化を深く楽しもうと地方や特定のスポットに関心が向かうものである。日本を訪れる中国人旅行者も最初は、団体で東京~富士山~京都~大阪を巡る「ゴールデンルート」を巡るのが通常だったが、2回目以降は家族や個人で北海道や九州、東北などの地方、しかも何某神社など特定の場所をピンポイントで訪れる傾向も強まっている。

 ゴールデンルート以外を訪れた訪日旅行者の割合(地方訪問率)と訪日が2回以上の旅行者の割合(リピート率)を出身国別にプロットすると・・・


■藤原 裕之(ふじわら ひろゆき)
略歴:
弘前大学人文学部経済学科卒。国際投信委託株式会社(現 三菱UFJ国際投信株式会社)、ベリング・ポイント株式会社、PwCアドバイザリー株式会社を経て、2008年10月より一般社団法人 日本リサーチ総合研究所 主任研究員。専門は、リスクマネジメント、企業金融、消費分析、等。日本リアルオプション学会所属。

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アジア , 業界動向 , 藤原裕之

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