事業会社によるスタートアップ買収の動向
スタートアップを対象とした投資が活発化しているようだ。昔は、IPOがスタートアップの
Exitの定石だったが、ファンドや事業会社に売却したというニュースを目にすることがかなり多くなった。この傾向は、米国では、10数年ほど前から顕著であったが(参考文献 「平成30年度産業経済研究委託事業、大企業とベンチャー企業の経営統合の在り方に係る調査研究、株式会社三菱総合研究所」)、日本でも近年加速してきたものと思われる。
背景のひとつには、COVID-19への対策としての世界的な金融緩和により、投資先を求めるマネーがファンドや株式市場に流れ込んでいることがある。それに加えて、特に日本の事業会社に対しては、市場から資本効率の向上やイノベーションの強化が求められており、まさに時間・アイデアを買い、将来への布石を打つためにスタートアップへの出資、買収を加速していることもあるだろう。2020年4月には、未上場企業への出資にともなう税制優遇も導入されており、この大きな流れは、これからも続くと考えている。
事業会社の中には、まるで投資会社のように次々と国内外の有望なスタートアップを傘下に収め、売却することで利益を伸ばしている会社もある。しかし、多くの日本の事業会社では、まだスタートアップの買収には不慣れ、というのが実態ではなかろうか。
そこで、本稿では、スタートアップの買収を行う際の人事・組織面での留意点について考察してみたい。なお、スタートアップ企業といっても定義が難しい。近年は、非上場でも上場企業をはるかに超える企業価値を持ち、数百人の社員を抱える企業もあるから単純に小規模企業とはくくれない。ここでは、厳密なデータを取り扱うわけではないので、「買い手に比べて小規模かつ創業からの歴史が浅い非上場の買収対象会社」をイメージして読み進めていただきたい。
スタートアップにおける人事機能
ほとんどのスタートアップでは、人事機能は軽視されている。投資家から必死に集めた資金を最大限効率的に活用することが求められる中で、コストセンターである間接機能はできるだけ最小化するように圧力がかかっている。資金調達・管理の担当者がいないことはありえないが、人事担当者がいないことはいくらでもある。人事そのものをビジネスにしていたり、CEOが人事に造詣が深かったりする場合を除いて、人事面での整備は大きく遅れている、もしくは(そうとは知らずに)違法状態となっていることもある。
それならば、社員が不満を募らせているかというと、必ずしもそうでもなく、社長の人望、会社のビジョン・将来性など様々な要素が社員のエンゲージメントを健全な水準に維持していて、実際に問題が表面化して係争に発展するリスクはそこまで高くないのが成功しているスタートアップの面白いところである。例えば、エンジニア中心の会社では、興味のある技術領域に集中できる環境そのものが満足度につながっていて、就業管理の甘さがかえって心地よい職場環境につながっていることすらある。
こうした表面化していない「問題」は、特に買い手が大きな事業会社である場合、看過できない本当の「問題」になるので、当然ながら
デュー・ディリジェンスでの重要確認事項になるし、サイニングから
クロージングまでの間、あるいは
PMIでの優先事項になる。
コンプライアンスの問題をクリアするにとどまらず、特にスタートアップのPMIでは