レコフデータは1985年以降のM&Aデータベースを構築しています

キーワード 一覧

[【M&A戦略】M&A戦略立案の要点(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)]

(2021/02/10)

<新連載>【第1回】 M&A戦略とは

木俣 貴光(三菱UFJリサーチ&コンサルティング コーポレートアドバイザリー部 部長 プリンシパル)

< こちらの記事は、会員登録不要でご覧いただけます >

厳しさを増すM&A市場

 M&Aは、基本的に売り手市場である。売却希望者よりも買収希望者のほうが圧倒的に多く、優れた経営資源を有する企業であれば、必ずといっていいほど複数の買い手候補が現れ、入札案件(オークション)となる。そのため、買収金額は高騰しがちであり、買い手側の事業シナジーに対する目利き力と高値で札を入れる度胸が試されることとなる。特に近年は、世界的なカネ余りを背景に多くのファンドが組成され、M&Aにおいて投資ファンドが買い手となるケースが増えている。入札における投資ファンドの参戦も、買収金額の高騰に拍車をかけている。こうしたことから、買い手にとってM&Aを成功させるハードルは非常に高くなっている。

 このように、争奪戦の様相を呈しているM&A市場においては、買い手は金融機関等からの持ち込み案件に頼るだけでは、魅力的な会社を買収する機会が限られてしまう。加えて、多くの企業は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経営環境変化やデジタル化への対応のため、事業構造の転換が待ったなしの状況である。

 そこで、ポストコロナも見据え、事業構造を抜本的に転換していくための手段としてM&Aを積極的に活用すべく、自ら指名買いに動くケースが増加している。指名買いであれば、入札を避けられる可能性も高い。

 当然ながら、指名買いを仕掛けるには、前提として自社のM&A戦略が明確であることが求められる。本連載では、M&A戦略立案の要点について7回にわたって解説をしていく。

M&A戦略とは?

 M&A戦略というワードは一般によく用いられているが、その使われ方はマチマチであり、その定義について学術的に定まったものは見当たらない。

 本連載では、M&A戦略を「経営戦略を実現するため、どのようにM&Aを活用するかを定めた基本方針」と定義する。

 このように定義すると、M&A戦略には次の3つの要素が必要となる。

 1つ目は、経営戦略との整合性である。経営戦略には、全社戦略(企業戦略)と事業戦略の2つがある。経営戦略との整合性とは、全社戦略及び事業戦略との整合性を意味する。

 2つ目は、ターゲット企業の明確な選定基準である。経営戦略を通じて必要となる経営資源やケイパビリティ(注1)が特定されるため、M&Aにより、そうした経営資源やケイパビリティを保有している企業をターゲット企業として設定することになる。

 3つ目は、M&Aを円滑に遂行するためのマネジメントルールである。具体的には、(1)実行段階の意思決定ルール、(2)実行後のモニタリングルール、(3)M&A推進部署の明確化が重要である。

図表1 M&A戦略の定義と3要素

出所:木俣貴光『M&A戦略の立案プロセス』(中央経済社、2019)

経営戦略からM&A戦略への落とし込み

 経営戦略からM&A戦略への落とし込みは、図表2のような流れになる。

 まずは、全社の事業ポートフォリオをどのようにするかという全社戦略(企業戦略)があり、それに基づき事業単位での事業戦略が作られる。事業戦略においては、競争を勝ち抜くための戦略が構想されるわけだが、その戦略を実現するために強化すべき経営資源を明確にすることが必要である。

 そして、事業戦略に基づき、特定の経営資源や市場でのポジションを獲得するために、どのような手段を用いるのかを決めるのが、「参入戦略の選択」である(図表4)。参入戦略には、内部開発や買収、戦略的提携など、いくつかの選択肢があり、目的に応じて、どの方法を用いるべきかを検討することとなる。

 参入戦略の検討の結果、M&A(買収や戦略的提携)を選択した場合、具体的なM&A戦略に落とし込んでいくこととなる。次回解説するM&A戦略の15類型を参考に、自社なりのM&A戦略の方向性とターゲット企業の選定基準を明確化していく。合わせて、M&Aを円滑に進めていくためのマネジメントルールが明確でなければ、そうしたルールを取り決めていくことになる。

図表2 経営戦略からM&A戦略への落とし込みプロセス

出所:木俣貴光『M&A戦略の立案プロセス』(中央経済社、2019)

M&A戦略の前提となる全社戦略

 全社戦略とは、事業ポートフォリオをどのようにしていくか、つまり、どの事業を伸ばして会社を成長させていくか(事業の縮小・撤退も含む)を決めることである。

 成長について、著名な経営学者ピーター・ドラッカーは次のように述べている。

 「成長は、事業の成功によって自動的にもたらされるものではない。成長は不連続である。ある段階で自らを変えなければならない。」(注2) 

 これは、企業が成長を持続させるには、意図的に事業構造を転換しなければならないということを意味している。製品及びその集合体である事業には、誕生期→成長期→成熟期→衰退期というライフサイクルがある。市場環境が変化する中で、基本的には特定の製品や事業が永久に成長し続けるということはあり得ない。単一の事業しか行っていない企業は、事業の衰退とともに企業も衰退し、やがて消滅することになる。そのため、永続的に企業として存在しようと思えば、遅くとも成熟期を迎えた時点で新たな成長分野を模索し、事業構造を転換しなければならない。これこそが、全社戦略の要諦といえよう。

 事業ポートフォリオの方向性と今後伸ばすべき事業を明確にすることが、全社戦略レベルのM&A戦略の前提となる。事業ポートフォリオの方向性を検討するには、事業セグメントごとの売上や利益の割合を、将来どのような割合に変えていくかをイメージするとよい。

事業戦略の方向性の明確化

 事業戦略とは、どのように競争に勝ち、事業を成長させていくのか、その作戦を明確化することである。事業戦略の方向性を定めるには、以下の3つの問いに答えられれば良い。

(1)どのケイパビリティを強化したいのか? 

(2)どの製品・商品を強化したいのか?

(3)どの市場(顧客層・エリア)を強化したいのか?

 この切り口から、事業戦略の方向性を整理するツールがCPMマトリックスである(図表3)。CPMマトリックスとは、事業もしくはバリューチェーンごとに、ケイパビリティ(Capability)、製品・サービス(Product)、市場(Market)の観点から、強化すべき課題を一覧化したものである。これにより、事業戦略における注力ポイントを見える化できる。

図表3 CPMマトリックス

出所:木俣貴光『M&A戦略の立案プロセス』(中央経済社、2019)

参入戦略の選択

 事業戦略における注力ポイントを明確化したら、次に、どのようにそれを実現するかを検討することが必要である。必ずしも「M&Aありき」ではなく、内部開発や戦略的提携、ライセンスの活用など、多面的な検討が重要である。

 内部開発のメリットは、既存資源を活用して、自社の特性に合わせた開発ができる点にある。自社のコア技術を生かした商品開発などには有利である。一方、開発には時間がかかる上、製品化や競争優位性の発揮という点で成果が出るかは不透明であることには留意が必要である。

 M&Aの最大のメリットは、時間の節約である。構築するのに時間を要する競争力のある技術力やブランド力、ノウハウ、市場での優位なポジションを一瞬で獲得できるという点は大きなメリットである。一方で、被買収企業に付随した不要な経営資源まで獲得してしまう、あるいは被買収企業と一体的な運営を実現するのに労力がかかるといったデメリットもある。

 戦略的提携は、企業の独立性を保ちながら、低コストかつ低リスクで市場参入することができる点は大きなメリットである。ただし、提携によって事業運営が制限される恐れや、ジョイント・ベンチャーなど事業運営が難しいといった留意点がある。

 コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)の多くは、企業の自己資金で運用されており、財務的なリターンだけでなく、ベンチャー企業の持つ技術やノウハウを活用することによる事業上のシナジー効果の実現を目的とする。一般に、1件当たりの投資額や出資比率は限定的であることから、低コストかつ低リスクで新技術や新事業への足掛かりを得ることができる。ただし、投資先はベンチャー企業であることから、事業の成長が不確実である点で適切な相手先の選定が難しいほか、マイノリティ出資となるため期待したシナジー効果を実現できないリスクもある。

図表4 参入戦略の選択肢

出所:デービッド・アーカー著、今枝昌宏訳『戦略立案ハンドブック』(東洋経済新報社、2002)をもとに加筆・修正

 次回は、M&A戦略の策定について解説する。

(注1)ケイパビリティとは、企業の強みとなる組織的な能力をいう。

(注2) ピーター・ドラッカー著、上田惇生編訳『マネジメント(エッセンシャル版)』(ダイヤモンド社、2001)。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング

■筆者略歴

木俣 貴光(きまた・たかみつ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 コーポレートアドバイザリー部
部長 プリンシパル

大手石油会社、外資系コンサルティング会社を経て現職。20年以上にわたり、大企業から中堅中小企業まで、幅広いクライアントに対して、M&Aアドバイザリー、グループ組織再編、事業承継対策といった資本政策のほか、M&A戦略立案、PMI支援、ビジョン策定、企業再生支援など、資本政策に付随する戦略テーマにかかるコンサルティングに従事。主な著書に、「M&A戦略の立案プロセス」(第14回M&Aフォーラム賞奨励賞受賞)、「企業買収の実務プロセス第2版」、「事業承継スキーム」のほか、実務小説「企業買収」(第6回M&Aフォーラム賞奨励賞受賞)(いずれも中央経済社)などがある。

関連記事

スキルアップ

[M&A関連本紹介]

M&A戦略の立案プロセス

木俣 貴光 /著

座談会・インタビュー

2013年9月号 227号

[マールインタビュー]

No.160 体験した企業買収の実像を小説で描き、日本のM&Aの発展に寄与する

 木俣 貴光(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 財務アドバイザリーサービス室長)

バックナンバー

おすすめ記事

【第5回】事業売却による価値創造

スキルアップ

[【企業変革】価値創造経営の原則と実践(マッキンゼー・アンド・カンパニー)]

NEW 【第5回】事業売却による価値創造

野崎 大輔(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー)
呉 文翔(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 アソシエイト・パートナー)


M&A専門誌 マール最新号


M&A専門誌マール

M&A専門誌マール

「MARR(マール)」は、日本で唯一のM&A専門誌で、「記事編」と「統計とデータ編」で構成されています。

レコフM&Aデータベース

レコフM&Aデータベース

「レコフM&Aデータベース」は、日本企業のM&Aなどどこよりも網羅的に、即日性をもって構築している日本で最も信頼性の高いデータベースです。

セミナー

セミナー

マールの誌面にご登場いただいた実務家、研究者などM&Aの専門家を講師としてお招きし、成功に導くポイント、M&Aの全体プロセスと意思決定手続き、実証研究から見た分析などについてご講演いただきます。

SPEEDA RECOF

SPEEDA RECOF

「SPEEDA RECOF」とは「レコフM&Aデータベース」と株式会社ユーザベースが開発・運営する企業・業界情報プラットフォームである「SPEEDA」がシステム連携します。

NIKKEI TELECOM日経テレコン 日経バリューサーチ

日経テレコン

2002年7月に、日本経済新聞デジタルメディアが運営する日経テレコンの「レコフM&A情報」を通じてM&Aデータの提供を開始しました。

M&Aに関するお問い合わせ、ご相談は
こちらからお気軽にお問い合わせ下さい。

お問い合わせフォーム