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[【法務】カーブアウトM&A の実務と課題(柴田・鈴木・中田法律事務所 柴田堅太郎・中田裕人弁護士)]

(2020/05/12)

【第5回】 カーブアウトM&Aにおける付随契約の留意点

柴田 堅太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所 パートナー弁護士)
中田 裕人(柴田・鈴木・中田法律事務所 パートナー弁護士)
1.はじめに

 今回は、カーブアウトM&Aにおいて、スタンドアローンイシュー(第1回参照)を解決するため、株式譲渡契約その他の最終契約とあわせて締結される付随契約について解説する。付随契約は買主にとってスタンドアローンイシュー解消のため極めて重要である一方で、売主にとっては付随契約によって売主のもとに残る対象事業以外の事業(以下「対象外事業」という)に悪影響を及ぼしかねないため、締結の有無及び条件を巡って最終契約と同様に激しい交渉が行われることは少なくない。

 付随契約の類型は事案に応じて多岐にわたるが、本稿では付随契約の代表的な契約類型について、かつ、カーブアウトM&Aにおける付随契約に特徴的な事項についてのみ言及することとし、各種契約類型の一般的な規定については、各種契約の解説に譲ることとしたい。なお、本稿では付随契約は売主とカーブアウトの対象となる事業(以下「対象事業」という)を吸収分割で承継した対象会社との間で締結することを主として想定している。

2.特許ライセンス契約

(1)付随契約としての特許ライセンス契約

 付随契約としての特許ライセンス契約は、対象外事業で必要となるため、承継対象とすることはできないが、対象事業で必要となる特許権をライセンスし、買主がカーブアウトM&A実行後も対象事業で使えるようにすることがその主な目的である。したがって、買主としては、あたかも譲渡を受けたのと同じように自由にライセンスの対象となる特許権(以下「ライセンス対象特許」という)を使いたいと考えるのが通常である。しかし、売主としては、売主の対象外事業に悪影響を及ぼしかねないことから、完全に買主の自由に使わせるわけにはいかない。このせめぎ合いが特許ライセンス契約の条件交渉となって現れ、ときにはディールブレイクにもなりうる契約交渉上最も重要な争点の一つとなってくる。

(2)ライセンス対象特許の範囲

 上記の通り、対象外事業にも関連するため、承継対象資産としての特許権(以下「承継対象特許」という)には含まれなかったが、対象事業に関連する売主保有特許がライセンス対象特許となる。対象事業で関連するといっても程度問題であるし、ライセンス対象特許の候補となる特許権は、対象外事業部門が所管しており、同部門からライセンスについて理解が得られないこと等から、その範囲を巡っては、承継対象特許と同様に激しい交渉が行われることも珍しくない。

 なお、ライセンス対象特許が共有である場合、既に共同出願契約等で同意済みの場合等を除き、共有者の同意が必要であるから(特許法73条3項)、注意を要する。買主の立場からは、最終契約において、付随契約の締結に加えて、かかる共有者の同意をクロージングの前提条件として求めることになる。

(3)許諾範囲

 特許ライセンス契約の許諾範囲については、買主側の意向としては、ライセンス対象特許を自己が保有する特許のように制限なく使いたいと考える。とりわけ、時間の経過により対象事業の事業内容が拡大する、買主の他事業との統合が行われる、さらには対象事業の周辺事業に進出したりする可能性がある以上、クロージング日時点の対象事業の使用に許諾範囲を限定することは、買主としては強く拒否したいところであろう。一方で、売主としては、ライセンス対象特許を何らの制限なく使われたのでは対象外事業の競合事業にも使われるおそれや想定外の用途に使用されるおそれがあるため、クロージング日時点の対象事業での実施に限定したいと考えるのが通常である。そのため、この点についてどのように当事者間の利害を調整するかが契約交渉上重要である。対応策としては様々ありうるが、対象製品をクロージング日時点の機種とその後継機種に限定したり、製品分野を限定してその範囲内の新製品であれば対象に含まれるようにすることが考えられる。

(4)独占・非独占、有償・無償等の条件

 買主としては、自己が保有する特許と同じようにライセンス対象特許を使用したいと考えるため、独占的ライセンスを望むことになるが、逆に、売主側において第三者に対するライセンス供与の自由が阻害されることから、独占条件となることは少ないように思われる。

 特許ライセンスの対価を有償とするか無償とするか、有償とするとして、どれくらいのロイヤリティとするかは、承継対象知的財産のバリュエーションと密接に関係する事柄であり、ケースバイケースであるが、対象事業の譲渡対価にロイヤリティ相当額も含めて評価しているとして、無償とすることは少なくない。

 サブライセンス権については、買主としては、ライセンス対象特許を自己が保有する特許と同じように使用したいと考えるため、付与することを希望するが、売主としては、ライバル企業がサブライセンシーになることは不都合であることから、買主の子会社その他の関係会社以外にはサブライセンスを認めないこととしたり、一定のライバル企業又は一定の業界内の企業に対してはサブライセンスできないこととしたりすることが多い。

(5)チェンジオブコントロール条項その他の付随条件

 付随契約としての特許ライセンス契約においては、契約上の地位及び権利義務の譲渡を禁じる譲渡禁止条項と、買主又は対象会社に支配権の移転が生じた場合にライセンサーである売主に解除権が発生するいわゆるチェンジオブコントロール条項(以下「COC条項」という)について問題となりやすい。すなわち、買主側としては、将来の対象事業の売却を想定して、譲渡禁止条項において、契約上の地位及び権利義務の譲渡禁止の例外として、対象事業を包括的に第三者に譲渡する場合には特許ライセンス契約の譲渡を可能とするとともに、COC条項を設けないことにより対象事業を承継した対象会社の売却に制約がかからないように求めることがある。これに対して、売主側としては、ライバル企業が対象事業又は対象会社を買収することでライセンス対象特許に係るライセンスを取得してしまうことを防ぐため、譲渡禁止条項には例外を設けないとともに、COC条項を設けたいと考える。

 また、買主としては、本来ライセンス対象特許を承継対象特許に含めることを希望していたことが多く、それを事後的に実現すべく、売主において対象特許が不要になった場合(売主が対象特許の放棄を検討する場合)には、買主が対象特許を買い取れる余地を与えるような条項を求めることがある。

3.特許ライセンスバック契約

(1)付随契約としての特許ライセンスバック契約

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■筆者履歴

柴田 堅太郎(しばた けんたろう)
1998年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2006年ノースウエスタン大学ロースクール卒業。2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)、2007年ニューヨーク州弁護士登録。長島・大野・常松法律事務所を経て、2014年2月に柴田・鈴木・中田法律事務所を開設、現在に至る。M&A、ベンチャーファイナンス、コーポレートガバナンス、企業の支配権獲得紛争などのコーポレート案件を主な取扱分野とする。





中田 裕人(なかだ ひろひと)
1999年東京大学法学部卒業、2007年University of Washington, School of Law (LL.M. in Intellectual Property Law and Policy)卒業。2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。長島・大野・常松法律事務所を経て、2014年2月に柴田・鈴木・中田法律事務所を開設、現在に至る。知的財産権紛争、知的財産権関連契約を含む知的財産権法務全般を主な取扱分野とする。

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