[寄稿]

2025年3月号 365号

(2025/01/28)

野蛮な来訪者に取締役会は“No”と言うべきか?

マルコ・ベヒト(ブリュッセル自由大学 教授)

(監修)
鈴木 一功(早稲田大学大学院 経営管理研究科教授)

(翻訳)
山岡 浩巳(フューチャー 取締役、元日本銀行金融市場局長)
  • A,B,C,EXコース
※本記事は、M&A専門誌マール 2025年3月号 通巻365号(2025/2/17発売予定)の記事です。速報性を重視し、先行リリースしました。
2024年11月18日、早稲田大学日本橋キャンパスにおいて、経済産業研究所(RIETI)、欧州コーポレートガバナンス研究所(ECGI)、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター(WBF)の共催によるシンポジウム「新時代を迎えた日本の同意なき買収:学術研究から見た企業、投資家への示唆」が開催され、日本が直面している同意なき買収への対処方針や今後の課題について活発な議論が行われました。
本記事は、コーポレートガバナンス分野における著名な研究者であり、ECGIの事務局長も務める、ブリュッセル自由大学のマルコ・ベヒト教授が本シンポジウムで行った基調講演(YouTube)の内容を翻訳し再構成したものです(なお、本記事では、「同意なき買収」と「敵対的買収」は同義で用いています。また「買収への対応方針」と「買収への対抗措置」をあわせて「買収防衛策」として語っています)。
 本講演の演題は、「野蛮な来訪者に取締役会は“No”と言うべきか」としています。「同意なき買収」に関する私自身の研究の成果を少しばかりご紹介するとともに、ECGIのネットワークに属しておられる方々、とりわけ法学研究者の方々の研究成果と知見をご紹介させていただきます。また、国際比較という視点からも、この問題を考えていきたいと思います。私がこれからお話しする内容に関して、皆様がより多くの文献を読みたいとお思いになれば、ECGIを通じて数多くの文献にアクセスできます。これから私がお話しする内容も、ECGI全体で蓄積した知見の概要のご紹介と捉えていただければ幸いです。

1 イントロダクション

(1) 巨大なビジネス機会を有する日本市場

 今回、私が日本を訪れて、日本がまさに、2009年の英国と似た状況にあることを目の当たりにしました。2009年当時、英国の象徴的チョコレート・メーカーであるキャドバリー(Cadbury)社は、米国の食品会社であるクラフト(Kraft)社による敵対的買収提案に直面していました。クラフト(Kraft)社は、米国の有名企業で、Kraft Mac & Cheese(通称“Kraft Dinner”)という粉末のチーズ味パスタソースを作っており、欧州では「野蛮な」食べ物と考えられていました。同様に今回、日本中どこにでもあるコンビニエンスストアであり、日本人ならば誰もが知っているセブン-イレブンに対して、日本人はほとんど知らなかったであろうカナダのアリマンタシォン・クシュタール(Alimentation Couche-Tard)社が買収提案をしてきました(Couche-Tardとは「夜更かし」の意)。これは、日本にとってまさに「衝撃」といえるものでした。

 2024年8月19日のクシュタール社の買収提案を受けて、セブン-イレブン・ジャパンの親会社セブン&アイ・ホールディングスの株価は大きく上昇しています(図表1)。


■筆者プロフィール■

マルコ・ベヒトMarco Becht(マルコ・ベヒト)
ブリュッセル自由大学教授として、コーポレートガバナンス等に関する研究を行っているほか、欧州コーポレートガバナンス研究所(ECGI)の事務局長として、世界各国のコーポレートガバナンス研究者のネットワーク形成に尽力している。

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