[【小説】グローバル経営改革 ~ある経営企画部次長の悩み深き日々]

2021年7月号 321号

(2021/06/15)

【小説】グローバル経営改革 ~ある経営企画部次長の悩み深き日々(第18回)

第2章「本社組織の改革編」 第12話「懐柔策」

伊藤 爵宏(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー)
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【登場人物】

サクラ電機株式会社 社長
鳥居 聡一
サクラ電機株式会社 副社長CFO
竹野内 悠
サクラ電機株式会社 企画担当役員
上山 博之
サクラ電機株式会社 本社 経営企画部 部長
堀越 一郎
サクラ電機株式会社 本社 経営企画部 次長
木村 遼太
サクラ電機株式会社 本社 経営企画部 スタッフ
山本 朝子
サクラ電機株式会社 本社 品質統括部 部長
渡辺 隆一
サクラ電機株式会社 本社 人事総務部 部長
小牧 琢也
サクラ電機株式会社 本社 経理部 部長
松田 駿
サクラ電機株式会社 本社 経理部 改革推進担当(木村の同期)
篠山 雄大
サクラ・マネジメント・サービス株式会社(SMS) 社長
坂田 剛史
(前回までのあらすじ)

 サクラ電機 本社経営企画部の次長である木村 遼太は、事業への権限委譲が進む一方で肥大化を続ける本社部門の改革を進めることになった。
 人事・総務オペレーション子会社であるSMS(サクラ・マネジメント・サービス)の外部化を検討する木村たちは、外資系のアウトソーシングベンダーであるエックス・オペレーションズ社に提案を依頼した。しかし、人事総務部長 小牧とSMS社長 坂田の妨害に会い、エックス・オペレーションズ社はこれ以上の提案を辞退してしまった。木村たちは、抵抗する小牧と坂田に対し、どうにか外部化を前に進める方法を模索していた。
 これは、あるコーポレートの経営企画部次長が、様々なコーポレートアジェンダに携わり、そして経営と現場の間で葛藤しながら、自社におけるグローバル経営の在り方を模索するストーリーである。



金曜日の夕方

 「ここは数字の前提をそろえた上で、各社の提案書に書かれている数値を再計算してから比較してみてもらえるか」
 エックス・オペレーションズ社の提案から約2週間経った金曜日の夕方、木村と山本は、SMSの外部化を前に進めるため、小牧や坂田を説得する資料をまとめていた。
 小牧や坂田からの「尋問」を受けたエックス・オペレーションズ社は、SMSとのパートナーシップ提案から降りてしまった。しかし、幸いなことに、提案のプレゼンテーションを希望するアウトソーシングベンダーは他にも数社あった。
 そこで、木村と山本は、当初の予定を変更し、各社からのプレゼンテーションの日程を延期していた。そして、その間に小牧と坂田に対抗する準備を進めた。すなわち、より詳細な情報をアウトソーシングベンダーに開示し、彼らから更に具体的な提案をもらうことで、小牧や坂田が反論できないような材料を集めようと考えたのだ。
 また、「それだけ外部からの提案を批判するならば」と、SMSにも自前の改革プランを検討させることにした。外部からの複数の提案と自社の改革プランを比較することで、客観的に最適な方策を導き出すという狙いだ。
 目下、すでに各アウトソーシングベンダーからの追加提案は出そろっており、現在はその比較分析を進めているところである。
 「分かりました、あとは、この部分ですが…」
 山本が言いかけると、オフィスに定時を知らせるベルが鳴った。
 その音を聞いた木村は、壁の時計に目をやると「もうこんな時間か」とつぶやく。
 「あれ、木村さん、もしかして今晩何か予定があるんですか?」
 普段は定時など気にも留めない木村の珍しいそぶりに、山本が何かを勘付いて言った。
 「ああ…すまない、実はちょっと約束があってな」
 気まずそうに木村が答える。

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