[【PMI】未上場企業買収後のPMIの実務(エスネットワークス)]
(2017/10/04)
第5回 PMIにおける「予算統制」の必要性
1.はじめに
前回の第4回では、「予算編成(下記図1)」の必要性について述べました。今回は予算編成を経て確定した予算をいかに運用していくか、すなわち「予算統制(図2)」について説明することにしたいと思いますが、ここで改めて「予算編成」と「予算統制」の関係について定義の説明を踏まえて述べたいと思います。
予算編成(図1): | 毎年一定の時期に、来期1年分(又は中期)予算を作成すること | |
予算統制(図2): | 予算編成を経て確定した予算に基づき、毎月実績値との比較検証を行っていくこと |
予算編成は毎年発生するものではありつつもあくまで「一過性のイベント」であり、PMI実行時において、仮に充分な組織化がなされていない中でも全社一丸で無理やりにでも対応することは可能です。一方で、予算統制は業務フローに組み込まれ、組織としてルーチンで対応すべき事項であることから、組織内に明確に機能と人員を配置する必要があります。(※)
※必ずしも部門を独立させる必要まではありませんが、それでも一定のリソースは必要となります。
そのため、事業年度の開始時点において、予算統制を実施できる体制を整えておくことが必要です。
2.予算統制の目的とポイント
「予算統制」の目的とは、一言で言えば、確定させた予算を経営に活用すること、といえます。
そこで、ここではCFOの視点で考えた場合、どのように予算を活用すれば会社経営に資することになるのか、という視点で、そのポイントをどこに置くべきかを以下に記載します。
①適時性
毎月一定(以内)の時期に分析を終えること。あまり分析が遅れると、経営スピードと比して意味の無い分析になります。
②検証可能性
「予算内訳」と、「実績財務数値」や「その他実績数値」との差異が事後に「定量的」に検証できる必要があります。差異が出ても「努力が足りなかった」「景気のせい」という分析を行っている間は意味のある検証は不可能です。
③正確性
予算は比較可能な程度で正確である必要があります。例えば、特に大きな理由なく実績数値と30%以上も乖離するような予算はそもそも分析に有益ではありません(その場合は当該予算を再編成する必要があります)
④変更可能(簡便)性
③とは反対のことを述べるようですが、経済状況(景気、為替、競合の状況等)の変化で期中でも予算変更が必要となってしまう場合もあります。この場合、いかに迅速に対応できるかも経営にとって重要な要素ですので、変更可能性はこのような事態にそなえても非常に重要です。
予算統制時のCFOの役割としては、①いかに早く、②意味のある差異について、③その原因を詳細に分析し、④最低限の工数で、経営陣や現場へその結果をフィードバックできるかということが重要になってきます。
もちろん、より内容を詳細にすれば工数も増えますし、スピードも遅くなることになりますので、各要素をどの水準でバランスさせるかがCFOの腕の見せ所といえるでしょう。どの程度のバランスとするかの解としては、「いかに経営に資するか。」という目的に沿っているかどうかという基準のみで判断されるものと考えています。尤も、どのバランスとすべきかという論点は前回ご説明した「予算編成段階でのグランドデザインの枠内」でのみ可能という点も留意が必要です。例えば、予算分析の「検証可能性」を高めるために、ある指標(実績数値やKPI(Key Performance Indicator))の存在に気付いたとしても、予算編成の段階で当該指標を取り入れていなかったとすると、期中にその指標を取り入れて予算分析することは、予算編成作業を根本的にやり直すことにつながるため、現実的に難しいと考えられます。当該指標の分析漏れが致命的な欠陥とならない限り、今期確定予算のグランドデザインには手を付けず、来期の予算編成時に予算のグランドデザインを変更したほうがよいでしょう。
3.予算統制 ~事前準備~
予算統制は、先述のとおり、月次決算業務同様のルーチン業務となります。そのため、CFO指揮のもとにしっかりした組織を作っておくことが事前準備として重要で…
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■筆者略歴
熊谷伸吾(くまがい・しんご)
東京大学卒業後、株式会社エスネットワークスに入社。2017年より在シンガポール。シンガポールをハブとして、国内外のPMI(合併・買収後統合実務)、管理機能BPR(ビジネスプロセスの設計/改善)を主に実行。過去に税務(税理士資格は過去に返上)、人事労務、IPO業務の責任者も経験。会計財務だけでなく、幅広い分野でクライアントにアドバイスを実施。IFRS、デューデリジェンス、Valuation等の経験も豊富。日本公認会計士。
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