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2020年4月に緊急事態宣言が発令されてから1年以上が経過した。コロナ禍という青天の霹靂を前に立ち尽くすしかなかった飲食店も消費者に向き合いながら徐々に立ち直りを図りつつある。もっともそこから見えてきたのは飲食店ごとの対応力の差だ。
コロナ禍でも歩を進めるお店とそうでないお店の違いはなにか。見えてきたのは「価値」を巡る競争である。消費者の不便さ・不自由さを解消する「機能価値」、そして内食生活で失われた心の豊かさを提供する「情緒価値」。この2つの価値に真摯に取り組むかどうかがコロナ禍の飲食店の明暗を分けている。
【機能価値で勝負】テイクアウトと立地がチェーン店の明暗を分ける
機能価値で勝負する飲食店の特徴といえば、吉野家のキャッチフレーズでもある「はやい・やすい・うまい」の三拍子であろう。コロナ禍ではそこに「安心・安全」「近い」の2つの要素が加わる。「安心・安全」はテイクアウト・デリバリーサービスを生み、「近い」はテレワークで住宅・郊外店の優位性が高まった。テイクアウトと郊外。この2要素が機能価値競争の勝敗を分けている。
(ケース1)牛丼チェーンは「近い」を制したすき家がリード
テイクアウトと立地の差が素直に結果に表れているのが牛丼チェーンだ。既存店売上げの伸び率をみてわかるように、牛丼大手3社で頭一つ抜きんでているのが「すき家」である(図表1)。
すき家はいち早く牛すき鍋定食などの鍋メニューのテイクアウトを導入することでコロナ禍の安心安全ニーズにうまく対応した。ただテイクアウト自体は吉野家・松屋も導入している。決定的な差別化要因となったのが「立地」だ。すき屋はもともと郊外や住宅街の立地が多いため、在宅勤務時のランチ需要を取り込みやすい。ゼンショーはコロナ禍にもかかわらず、3社の中で唯一出店が閉店を上回る。吉野家は「牛丼テイクアウト15%オフキャンペーン」を行っても今一歩結果に結びついていないのは立地が影響しているせいであろう。宅配サービスも立地条件から逃れられない。店の場所が遠いと宅配時間に影響するからだ。
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■藤原 裕之(ふじわら ひろゆき)
略歴:
弘前大学人文学部経済学科卒。国際投信委託株式会社(現 三菱UFJ国際投信株式会社)、ベリング・ポイント株式会社、PwCアドバイザリー株式会社、一般社団法人日本リサーチ総合研究所を経て、2020年4月より合同会社センスクリエイト総合研究所代表。株式会社東京商工リサーチ客員研究員を兼任。専門は、リスクマネジメント、企業金融、消費分析、等。日本リアルオプション学会所属。
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藤原裕之のブログ アートとサイエンスの「あいだ」」を運営。